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cyberpunk 2077

Shard.12:ソロモン・リード - 国家という呪縛。信念と狂気が交差するスパイの凄惨な生き様

見捨てられてなお国家を狂信する男、ソロモン・リード。大義に潜む搾取と、信念と狂気が生み出す凄惨な悲劇。終わりのない忠誠の無間地獄の果てに、彼が本当に待ち焦がれていた究極の救済とは――。

音声解説

はじめに:暗黒の街に潜む「生きた亡霊」と国家主義の呪縛

ナイトシティのネオンが落とす濃い影の中には、無数の亡霊が潜んでいる。彼らは死体として路地裏に転がる者たちではない。呼吸をし、飯を食らい、時にはクラブの入り口で酔っ払いを追い払う「生きた亡霊」たちである。ソロモン・リードは、まさにその筆頭であった。新合衆国(NUSA)の連邦情報局(FIA)に所属する卓越したスパイであり、暗殺の阻止、誘拐犯との交渉、恐喝、サボタージュ、そして南米の共和国でのクーデター工作に至るまで、国家の汚れ仕事のすべてを文字通り「執行」してきた男である。拡張DLC『仮初めの自由(Phantom Liberty)』において、我々は彼とドッグタウンの最下層で交差することになる。

しかし、彼の真の特異性は、その圧倒的な戦闘力や諜報能力にあるのではない。「国家(システム)」という巨大な怪物に対する、狂気じみた、そして自己破壊的なまでの忠誠心にある。サイバーパンク文学におけるトランスヒューマニズムは、しばしば「クローム(機械化)による肉体と人間性の喪失」として描かれるが、リードの人間性を奪っているのはサイバーウェアの過剰な搭載ではない。彼のこめかみや首には特有のサイバーウェアが埋め込まれていることが視認できるが、彼から自由意志を奪い去っている真の元凶は、「NUSA」と「ロザリンド・マイヤーズ大統領」という名の抽象的な呪縛である。

本レポートでは、断片化されたシャード、通信記録、過去の隠蔽された作戦、そして結末の分岐から、ソロモン・リードという男の精神構造を徹底的に解剖する。彼が盲信する「大義」の裏にある搾取の構造と、信念と狂気が交錯するスパイの実存主義的な悲劇を明らかにしていく。この緻密なリサーチを通じて、彼がなぜ自らの人生を国家の祭壇に捧げ、そして周囲の人間をもその炎に巻き込んでいったのか、その因果の全貌を解き明かす。

1. 統一戦争と2070年の裏切り:平和の代償として切り捨てられた駒

ソロモン・リードという人間を語る上で避けて通れない歴史的転換点が、2070年の統一戦争末期に起きた「裏切り」の事件である。当時、ナイトシティにおけるFIAの諜報網構築という極秘任務を帯びていたリードのセル(工作員チーム)は、最終的に自身の主君であるマイヤーズ大統領によってアラサカへの「供物」として差し出された。

この凄惨な出来事に関して、ゲーム内で明示されている「事実」と、当時の状況や会話記録から導き出される「考察」を明確に区別し、以下の構造として提示する。

事象の分類詳細な記述と分析
明示された事実マイヤーズ大統領はアラサカとの和平(あるいは休戦)を成立させるための代償(ピース・オファリング)として、ナイトシティで活動していたリードをアラサカ側に売り渡した。襲撃を受けたリードは瀕死の重傷を負うが辛くも生き延び、その後7年間にわたりドッグタウンやナイトシティの地下に潜伏することとなった。
リード自身の自己正当化リード自身はこの出来事を「平和には代償が伴う。誰かが必ずそのツケを払わねばならない(Peace comes at a price, Someone’s always gotta pay.)」と語り、自らが切り捨てられたことを国家の利益のための必要悪として合理化している。
状況証拠に基づく考察ドッグタウンの隠れ家「ザ・モス(The Moth)」の地下ボイラー室での会話において、リードは「我々はアラサカの工作員がトドメを刺しに来るのを毎晩待っていた。私は選択を迫られ、踏みとどまる(dig our heels in)ことを選んだ」と告白している。マイヤーズから直接の撤退命令が出されていたにもかかわらず、彼は任務を放棄できず、手遅れになるまでソングバードと共に街に残った。これは単なる命令遵守ではなく、「自分が国家にとって有用な駒であり続けたい」という強迫観念に起因する判断ミスであったと推測される。

この考察が示す通り、リードは国家に見捨てられ、暗殺されかけながらも、システムへの憎悪に向かうことはなかった。むしろ、見捨てられた事実を「大局的な犠牲」として神聖化することで、自身のアイデンティティの崩壊を防いだのである。

シティセンターにあるディノ・ディノヴィッチのバーで、彼が野球帽とサングラスで身分を偽り、夜な夜な用心棒(バウンサー)として入り口に立っていたという事実は、彼の7年間がいかに空虚であったかを物語っている。彼は「ナイトシティを監視するため」と嘯くが、実態は自由な人間としての生を歩み出すことができず、かつての主人の帰りを待つ繋がれた犬に過ぎなかった。巨大資本主義と国家主義が交差するこの世界において、個人の自己決定権が完全に搾取された状態、それこそがリードの7年間の正体である。

1.1 「ザ・モス」の地下室:終わらない監視と情報網

ドッグタウンのロングショア・スタックスにあるバー「ザ・モス」の地下ボイラー室は、リードと部下のアレックスが長年使用してきたFIAの隠れ家である。この埃を被った旧式のテクノロジーが眠る空間を調査すると、リードが単に怯えて隠遁生活を送っていたわけではないことが明確になる。

この部屋に残された情報端末やシャード「FIA: OPERATIONAL RECON IN “DOGTOWN”(FIA:『ドッグタウン』における作戦偵察)」には、ドッグタウンを支配する主要なギャング組織の動向が克明に記録されていた。リードの記録によれば、ロス・ウルマー率いるバーゲストは武器、薬物、サイバーウェアなどの密輸を大規模に展開し、重武装化を進めている。また、アヨ・ザリン率いるヴードゥー・ボーイズのネットランナー分派がスタジアムのサーバー群を掌握し、バーゲストの個人データの暗号化や技術的支援を担っているという構造的な癒着関係まで洗い出していた。さらに、スカベンジャーが人道支援物資の輸送ルートを偽装して武器密輸を行っている事実も掴んでいたのである。

リードは死んだふりをしながらも、常にドッグタウンの暗部を監視し続け、いつか自分を迎えに来る「復帰」の日のために膨大な情報を蓄積していた。彼にとってのアイデンティティは「FIAの工作員」以外に存在せず、自らを別の何かに再定義する(例えばただの傭兵や一般市民になる)という選択肢は最初から欠落していた。彼の悲哀は、その圧倒的なスパイとしての有能さが、常に自己を縛る強固な鎖として機能している点にある。

2. アレックスとメデジン作戦:血塗られた過去と完璧な諜報の罠

ソロモン・リードの悲劇は、彼一人の内面で完結するものではない。彼には有能な人材を見出し、育成する類稀な才能があった。しかし、彼が見出した才能は、結果として国家という挽肉機に放り込まれる運命を辿った。リードは彼らを「救った」と信じて疑わないが、実態は「システムへの隷属を強要した」に過ぎない。

その最たる犠牲者の一人が、ドッグタウンのバー「ザ・モス」で長年バーテンダーのダフネに扮して潜伏し続けていたアレックス(アリーナ・ゼナキス)である。彼女もまた、19歳という若さでリードにスカウトされ、過酷なスパイの世界に引き摺り込まれた人間であった。メインジョブ『翼の折れた鳥たち(Birds With Broken Wings)』において、Vはアレックスとリードから、過去に彼らが従事したコロンビア・メデジンでの過酷な作戦の全貌を聞かされることになる。

このメデジン作戦のエピソードは、FIAの非情さと、リードのチームが抱える構造的な危うさ、そして彼が最終的に暴力によって事態を収拾しようとする傾向を浮き彫りにする。 作戦の標的は、コロンビア大統領の庇護を受け、企業テクノロジーの密輸を取り仕切っていた大物武器商人のルイス・エルナンデスであった。アレックスは、エルナンデスの側近である技術エンジニアのアイデンティティを奪い、組織の内部へと単独で潜入するという極めて危険な任務に就いた。

作戦の事前準備として、ターゲットや変装対象の経歴を調査するドシエ(身上調査書)を作成したのは、若き日のソングバード(ソ・ミ)であった。しかし、彼女の作成した完璧に思えた情報には、一つだけ致命的な欠落があった。本物のエンジニアは「犬に対して異常なまでの恐怖症(phobia)」を抱えていたのである。 潜入の最中、エルナンデスの関係者がドーベルマンを連れて現れた際、犬を極度に恐れる素振りを見せるべき場面で、アレックスは無意識に犬を撫で、「いい子だ」と声をかけてしまった。その一瞬の矛盾、わずかな人間的反応によって完璧な偽装は瞬時に見破られ、彼女は武装した男たちに銃口を向けられることとなった。

隠密裏に行われるはずだった作戦が破綻した瞬間、リードの部隊が取った行動は、緻密な諜報機関のそれではなく、圧倒的な暴力による「殲滅」であった。リードたちは「ドアを蹴破り」、エルナンデスとその部下たちを血の海に沈めて皆殺しにしたのである。そして、この大惨事を隠蔽するため、FIAは公式発表において「対立カルテルによる激しい抗争の結果である」という虚偽の報告を捏造した。

このエピソードは、単なる過去の武勇伝として消費されるべきものではない。「些細な情報の欠落が文字通り命取りになるスパイの世界の過酷さ」を示すと同時に、「ソングバードのわずかなミス」「それによって危機に陥るアレックス」「そしてリードによる極めて暴力的な事態収拾と隠蔽工作」という、彼ら3人のその後の運命を暗示する縮図となっているのである。アレックスはシステムから抜け出すことを望み、ただFIAを「引退」してモナコで余生を過ごすことだけを夢見ていた。彼女はリードのように盲目的な操り人形ではなく、現実を見据えていたが故に、皮肉にもリードの道(ソングバードを捕獲するルート)を選んだ場合、カート・ハンセンの手によって非業の死を遂げることになる。

3. ソングバード(ソ・ミ)との愛憎:システムへの隷属を強要する保護者

リードとソングバード(ソ・ミ)の関係性こそが、本作における最も凄惨な実存的対立の核である。 リードは、ブルックリンで育ち、若き日にその類稀なるネットランニング能力ゆえにネットウォッチや巨大企業から命を狙われていたソ・ミを、間一髪のところでFIAに引き入れることで「命を救った」という過去を持つ。リードの主観において、これは絶対的な善行であり、無力な少女を確実な死から救い出した正義の行いであった。しかし、ソ・ミの実存的現実から見れば、それは「即死」を免れた代わりに、国家という名の拘束衣を着せられ、旧ネットと人類を隔てるブラックウォールの深淵にアクセスするための「生きた大量破壊兵器」として、魂と肉体を徐々に摩耗させられる無間地獄の始まりに過ぎなかった。

リードの抱える自己矛盾はここに極まる。彼はソ・ミを心から気遣い、彼女がマイヤーズ大統領の密命によってブラックウォールへの無謀なダイブを強要され、その代償としてAIに精神と肉体を削られている事実を知ると、彼女を救うと固く誓う。だが、彼の言う「救済」は、常に「NUSAの管理下に置くこと」「マイヤーズのもとへ連れ戻し、正規の医療を受けさせること」を大前提としている。彼は、ソ・ミ自身がマイヤーズこそを自分を殺す最大の脅威と見なしており、国を捨てて月(軌道上の独立した医療施設)へ逃亡することでしか真の自由と治癒を得られないと確信しているという事実から、頑なに目を背け続けているのである。

ソ・ミは生き残るためにすべてを裏切った。主人公Vに「治療薬は二人分ある」と嘘をつき、マイヤーズの乗るスペースフォース・ワンの墜落を仕組んでドッグタウンに誘い込み、さらにはかつての恩人であるリードさえも謀略にかけようとした。それでもなお、リードは彼女の凶行を許し、彼女を「救い出そう」と手を差し伸べる。この異常なまでの執着は、もはや純粋な愛情や父性ではない。「自分の行い(彼女をFIAに引き入れたという過去の選択)が間違いではなかった」と自らに証明するための、身勝手なエゴイズムと狂気に他ならない。

彼ら二人の間にある認識の断絶は、次のような明確な対立構造として整理できる。

観点ソロモン・リードの主観的認識(信念)ソングバード(ソ・ミ)の実存的現実(真実)
FIAという組織の性質FIAこそが彼女を外敵(企業やネットウォッチ)から守る唯一の強固な安全網である。FIAとマイヤーズこそが彼女の精神と肉体を極限まで搾取し、死に追いやる元凶である。
治療と救済へのアプローチ組織の命令に従い、正しい手続きを踏めば、大統領は必ず彼女の病(浸食)を治療する。大統領にとって彼女は「意思を持った人間」ではなく、使い潰すための「戦略的兵器」に過ぎない。
帰還の持つ意味リードのもとへ帰還することは、安全な家への帰還であり、破滅からの保護である。リードのもとへ帰還することは、永遠にブラックウォールへのアクセスを強要される奴隷化への回帰である。

4. ゴロウ・タケムラとの比較:忠義の二面性と、実存の放棄

サイバーパンク2077のロアにおいて、ソロモン・リードの特異な精神構造を浮き彫りにするためには、本編におけるもう一人の「狂信的な忠義者」であるゴロウ・タケムラとの比較が不可欠である。両者はともに、巨大な権力機構(国家とメガコーポ)に己のすべてを捧げ、物語の分岐においてプレイヤー(V)と対立、あるいは共闘する存在として描かれる。

タケムラはアラサカ・サブロウという絶対的な君主に仕える「コーポレート・サムライ」である。彼はスラム街の出身でありながら、アラサカによって拾われ、教育と力を与えられたことに無限の恩義を感じている。彼の忠義は、日本の封建的な武士道精神に根ざしており、彼自身が「アラサカという企業が世界に秩序をもたらしている」と本気で信じている点に特徴がある。彼にとって、企業の論理は世界の真理と同義である。

対照的に、リードはNUSAという「国家」と「大義」に忠誠を誓っている。しかし、リードの場合はタケムラよりもさらに陰惨で、心理的な逃避の色彩が強い。なぜなら、リードはFIAやマイヤーズが必ずしも清廉潔白ではなく、時に冷酷な裏切りを行う組織であることを、2070年の自身の経験から痛いほど理解しているからだ。タケムラがアラサカの闇の一部を知りつつも大義を信じているのに対し、リードは「自分が他者(ソ・ミやアレックス)の人生を狂わせた」という深い罪悪感を抱えており、その罪悪感を正当化するために「自分が信じた国家は正しくなければならない」という循環論法に陥っているのである。

Vから見れば、タケムラは圧倒的な脅威でありながらも、その行動原理が「主君への忠義」という一点において極めて明快で予測可能である。一方、リードは「君たちを救うためだ」と優しく語りかけながら、背後で国家の歯車として容赦なく自由を奪いに来る。自らを「善良なる庇護者」と錯覚している分、リードの抱える狂気はタケムラのそれよりも遥かにタチが悪く、サイバーパンク文学が批判する「巨大システムによる個人の無意識下での搾取」を完璧に体現していると言える。

5. ルート分岐が暴くソロモン・リードの真の顔

プレイヤー(V)の選択によって分岐する拡張DLCの結末において、ソロモン・リードの抱える矛盾と狂気は、取り返しのつかない形で白日の下に晒される。

5.1 キュノスールの深淵(リード・ルート):破壊による解放か、永遠の隷属か

メインジョブ『Firestarter』において、アレックスとリードの計画に加担し、ハンセンの面前のスタジアムでソングバードを無力化して捕獲する道(King of Pentacles / King of Cupsへの分岐前提)を選んだ場合、事態は最悪の破滅へと向かう。裏切りを悟ったソ・ミはサイバーサイコシス的な暴走状態に陥り、駆けつけたNCPDのマックスタック部隊を壊滅させ、かつてミリテクが極秘裏に自律型AIを研究していた地下深くの廃施設「キュノスール(Cynosure)」へと逃げ込む。

この光の届かない深淵の底で、Vはブラックウォールを越えてきたAIたちによって精神と肉体の大部分を浸食され、人間性をほぼ完全に喪失しかけているソ・ミを発見する。そこで彼女は、最期の人間としての意志を振り絞り、Vに対して「私を殺してほしい」と切実に懇願する。

選択:ソ・ミの命を絶つ(King of Cups) Vが彼女の願いを聞き入れ、生命維持のコアに繋がれたケーブルを引き抜き、その苦しみを終わらせた場合、リードが立てた「彼女を生きてNUSAに連れ戻す」という計画は完全に崩壊する。後日、ジョブ『Four Score and Seven』において、かつてVと初めて会ったドッグタウンのバスケットボールコートでリードと再会する。 彼は最初、Vの独断による殺害を責め、ソ・ミを失ったことでマイヤーズから「失敗したエージェント」として冷遇されたことを示唆する。しかし、対話の末に、彼は「結局のところ、お前が正しかったのかもしれない(you were ultimately right)」と、苦渋に満ちた敗北を認めるのである。ソ・ミの絶対的な死という現実を突きつけられて初めて、リードは「NUSAが彼女を救うことは最初から不可能であった」という真実から逃げ場を失う。彼はNUSAの呪縛から(少なくとも精神的には)わずかに解き放たれ、自分自身の人生を見つめ直すため、ワシントンDCからの呼び出しに応じるべきか葛藤することになる。この結末は、彼にとって最も痛みを伴うが、同時に唯一の「目覚め」の契機となる。

選択:ソ・ミを生かす(King of Pentacles) 一方、Vが彼女の願いを非情にも拒絶し、「FIAの助けが必要だ。だから君には生きていてもらう」と告げ、駆けつけたリードに生きたまま引き渡した場合。リードは「彼女を救った」と安堵するが、後日のバスケットボールコートでの会話で、彼は酷く虚ろな表情を見せる。ソ・ミの命は永らえたものの、マイヤーズ大統領の「ブラックウォールに接続するための操り人形(Blackwall puppet)」として、自我を封印されたまま生かし続けられるという、死よりも恐ろしい地獄へ落とされたことを彼は悟っているからだ。リードは自分が誓ったNUSAへの忠誠によって、最も救いたかった存在の「魂(ソウル)」を完全に抹殺してしまった。彼は「これが最善だった」と必死に正当化しようとするが、その心は底知れぬ虚無に蝕まれており、かつての信念は音を立てて崩れ去っている。

5.2 宇宙港の決闘(ソングバード・ルート):自由の代償と「最後の赦し」

『Firestarter』においてソ・ミを信じ、彼女のスタジアム脱出を助ける道を選んだ場合、最終任務『The Killing Moon(殺人月)』へと繋がり、オービタル・エアーのナイトシティ宇宙港(NCX)を舞台にした壮絶な追走劇が展開される。限界を迎えたソ・ミを抱え、月行きのシャトルへと向かうVの前に、マイヤーズの直接命令を受けたリードが重武装で立ち塞がる。

ここでリードは、Vに対して容赦なく銃を抜き、「彼女を降ろせ。近づけば撃つ」と最後通牒を突きつける。

選択:リードを撃ち、ソ・ミを月に送る(King of Wands) Vがソ・ミを渡すことを頑なに拒否した場合、雨の降る発射デッキでスローモーションの決闘(スタンドオフ)が発生し、Vは自らの手でリードを射殺しなければならない。リードの胸に銃弾が撃ち込まれた瞬間、彼は崩れ落ち、静かに息を引き取る。この結末において、リードはついに「国家の任務」という耐え難い重圧から解放される。彼の死体からはアイコニック武器であるテックピストル「パライア(Pariah:のけ者、追放者の意)」が手に入る。彼はずっと組織のパライアでありながら、組織にすがりついていた。この死は、ソ・ミの自由への代償であると同時に、リードへのある種の「救済」でもある。コミュニティの考察でも、「リードは無意識に自分を止めてもらうことを望んでおり、死ぬことでしか呪縛から逃れられないことを悟っていたのではないか」と語られることが多い。また、ソ・ミ自身も、リードがどこかで自分を許してくれることを望んでおり、Vが彼女を月に送ることは、二人にとっての究極の痛みを伴う別離の儀式となる。

選択:ソ・ミをリードに引き渡す(King of Swords) 列車の道中でソ・ミから「治療薬は1人分しかない」という致命的な真実(裏切り)を告げられ、絶望と怒りのあまり、Vがリードと通信を開いて取引をした場合。Vはシャトルの前でソ・ミを床に降ろし、リードに引き渡す。リードは約束通り、Vの延命治療(RELICの除去)をNUSAの医療機関に手配する。この結末は、後述する本編の新規エンディング「塔(The Tower)」への直通ルートとなる。

5.3 塔(The Tower)の結末:圧倒的な孤独と「静かなる生」の実存的恐怖

ソングバードをNUSAに引き渡す見返りとして治療を受けたVは、拡張DLCを導入したことで解放される新エンディング「塔(The Tower)」へと向かう。この結末こそが、ソロモン・リードという男が体現する「国家による搾取と、安全という名の去勢」の行き着く果てを、プレイヤー自身が味わうための壮大な仕掛けである。

NUSAの高度な医療技術による大手術の結果、RELICは無事に除去され、Vは一命を取り留める。しかし、その代償はあまりにも残酷であった。Vは2年間もの長い昏睡状態に陥り、目が覚めた時には神経系が深刻なダメージを受けており、戦闘用はおろかほとんどのサイバーウェアを使用できない脆弱な生身の肉体へと退化させられていた。頭の中にいたジョニー・シルヴァーハンドは手術の過程で完全に消滅し、パナムやジュディ、リバーといったかつての仲間たちはそれぞれの道を歩み、2年の歳月によってVとの関係は決定的に断絶してしまった。

クロームの力も、友人も、伝説の傭兵としての名声も、すべてを喪失したVに対し、ラングレー(CIA・FIA本部)で後進の育成にあたるデスクワークに就いたソロモン・リードが連絡を取ってくる。彼はVに対し、NUSAのインテリジェンス・アナリストとしての安全なデスクワークのポストを提示する。 「君には自分の隣のオフィスを用意してある。いつでも来るといい」と語るリードの態度は、純粋な善意に満ちている。しかし、プレイヤーの視点から見れば、これは『サイバーパンク2077』における最悪の結末の一つである「悪魔(The Devil)」エンディングにおけるアラサカの隷属契約と同質の、あるいはそれ以上にグロテスクな「保護という名の去勢」である。

多くのプレイヤーがこの「塔」エンディングを忌避する理由はここにある。ナイトシティにおける実存主義の核である「たとえ短くとも、自らの意思で生と死を選択し、名を残す(Blaze of Glory)」という権利を完全に奪われ、暴力に支配された街で自衛すらできない無力な存在として、最終的には企業や国家の歯車(NPC)に成り下がるからである。 リードは、牙を抜かれ孤独になったVに対して「これで平穏な人生(Quiet Life)が送れる」と本気で信じている。彼は、Vが失ったものの巨大さ(自由、人間関係、誇り、自己決定権)を理解する想像力を完全に欠落させている。彼自身が、かつて2070年にすべてを失いながらも「国家の歯車」として生き直すことを受け入れた人間だからだ。彼はVに自分と同じ「牙を抜かれた犬」としての幸福を押し付けているに過ぎない。

5.4 隠された留守番電話:死を選ぶ自由を理解できない男

この「塔」エンディングに至る道において、本作の哲学を象徴する非常に興味深い隠し要素が存在する。手術を受ける直前の屋上、あるいは決断の最終局面で、VがNUSAからの治療の申し出を「拒否」し、残されたわずかな時間で死を迎える道(あるいは『Don’t Fear The Reaper』などの他のエンディングへ向かう道)を選んだ場合、エンドロールでソロモン・リードからのシークレット・ボイスメールが再生されるのである。

「君の決断について耳にした。私には理解できない。あと一歩で生きられたというのに……。感謝を示すことにかけては、NUSAは長けている。それなのに、君は理解できる理由もなく、自ら死を待つことを選んだ」(一部意訳)

この短いメッセージは、リードの精神的な限界と、彼がシステムに完全に同化している事実を完璧に表している。「生き延びる」という生物学的な絶対命題、そして「国家の保護下に入る」という安全な選択肢を前にして、なぜVがそれを放棄してまで「自分の意思で死ぬこと」を選んだのか、彼には本当に、微塵も理解できないのである。

また、このシークレットルートに関連する別のメッセージでは、誰とも連絡を取らず、オハイオ州デイトンという「何もない田舎町」で完全に孤立している様子が語られる。このメッセージは「治療を受けたが、ナイトシティを離れて完全に孤立したV」の悲惨な顛末、あるいは「己の過去と切り離された者の完全なる虚無」を色濃く示唆している。リードが「善意」から提示する「生き延びる道」の先にあるのは、決して栄光や希望ではなく、過去のすべてを否定された者だけが味わう圧倒的なまでの静寂と孤立なのだ。

6. ザ・モスでの追憶:1R-0NC-LADが示す「再プログラミング」のメタファー

リードとアレックスの拠点であるドッグタウンのスタジアム周辺には、彼らの運命を暗喩するような奇妙な環境ストーリーテリングが存在する。スタジアムのコンテナ群の間に隠された、壊れたロボット「1R-0NC-LAD」をめぐる隠しクエストである。

このロボットは持ち主に見捨てられ、Vにシステムの再構築を求めてくる。Vが5つのソフトウェア箱を集め、ロボットを再起動させる際、プレイヤーは3つの選択肢を与えられる。

  1. メモリを消去する(過去を奪う)。

  2. そのまま放置する(自律を許すが、結果としてロボットはかつての知人を殺害してしまう)。

  3. 高い知力(Intelligence 15)を用いて平和的に「再プログラミング」し、ギターを弾くような新しい存在へと作り変える。

この一連のプロセスは、驚くほどリードがソ・ミに対して行おうとしたこと、そしてNUSAがリードやVに対して行おうとしていること(The TowerエンディングにおけるVの記憶や能力の再定義)と重なる。国家は常に個人を「再プログラミング」し、自らの都合の良い歯車(あるいはブラックウォールの兵器)として作り変えようとする。1R-0NC-LADが平和なギタリストになれたのは、Vという一個人が「システムへの隷属」以外の道を提示できたからに他ならない。しかし、リードにはその高い知力(真の意味での哲学的洞察)が欠けており、ソ・ミのメモリを消去してNUSAというシステムに初期化することしか考えられなかったのである。

結論:機械仕掛けの国家と、魂を売り渡した男の終焉

ソロモン・リードは、『サイバーパンク2077』の世界において、企業支配とは異なる「システム」のもう一つの顔を体現している。アラサカやミリテクといった巨大多国籍企業が資本と武力によって直接的に人間をすり潰すとするならば、NUSAという国家権力は「愛国心」「大義」「忠誠」「保護」という抗いがたい美辞麗句を用いて人間の精神を内部からハッキングし、自発的に魂をすり潰させる。

彼は血に飢えた殺人鬼でもなければ、冷血なサイコパスでもない。むしろ、部下の安全を常に気遣い、一度交わした約束は必ず守り、他者のために自己犠牲を一切厭わない「善良で高潔な男」である。だからこそ、その崇高な善良さが、マイヤーズの冷酷な野望という極悪非道なシステムを維持するために利用され尽くしているという事実が、この上なくグロテスクなのである。

彼はソングバードを死の淵から救おうとし、アレックスに引退後の安らかな生活を与えようとし、Vに確実な延命治療と新たな職場を提供しようとした。しかし、そのすべての根底には「大局的な大義のために、個人の自由意志は剥奪されて然るべきである」という全体主義の論理が深く根を下ろしていた。ソングバードが命を懸けて月(彼方の自由)へと逃亡しようとしたのも、Vが「栄光の死」を望むのも、この「国家という巨大な檻の中で飼い慣らされ、生かされること(=魂の死)」への、実存を賭けた究極の反逆であった。

リードの凄惨な生き様は、我々に一つの痛烈な問いを突きつける。

「自己の信念と道徳を巨大な権力機構に仮託した時、人はどこまで正気を保ちながら、狂気を行使し続けることができるのか」

ナイトシティの冷たい雨が打ち付けるアスファルトの上で、あるいは月へと向かうシャトルの目も眩むような発射炎を背にして、リードは胸を撃たれて崩れ落ちるか、あるいは真実を知り絶望の中に立ち尽くす。彼がディノのバーで7年間待ち焦がれていた「一本の電話」とは、新たな任務を告げる大統領からの指令などでは決してなく、自分という矛盾に満ちた存在を撃ち抜き、この終わりのない忠誠の無間地獄から永遠に解放してくれる、一発の銃弾だったのかもしれない。

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#サイバーパンク2077 #仮初めの自由 #ソロモン・リード #ソングバード #アレックス #NUSA #マイヤーズ #スパイ #考察
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