Log.07:指導者ドルマヤンとルビコン解放戦線 - 灰かぶりの星々と「賽を投げない」という選択
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アイビスの火と呼ばれる未曾有の大災害が星系を焼き尽くしてから半世紀。焦土と化した辺境の開発惑星ルビコン3において、土着の生存者たちが組織した武装抵抗勢力、それが「ルビコン解放戦線(Rubicon Liberation Front = RLF)」である。星外企業や惑星封鎖機構(PCA)の搾取と弾圧に抗う彼らは、「灰の中から鍛え上げられた我々は、一つとなって立つ(Forged in ash, we stand as one)」というスローガンを掲げ、特異なエネルギー資源「コーラル」を神聖視する「コーラル戦士」として死地へと身を投じている 。
しかし、彼らの教義と闘争の深層には、単なるディストピア社会におけるレジスタンス運動の枠に収まらない、実存主義的な恐怖と自己矛盾、そしてトランスヒューマニズムへの根源的な問いが隠されている。解放戦線という組織は、一枚岩の狂信者の集まりではない。その内部には、星外企業を出し抜くための冷徹な資本主義的結託や、諜報と裏切りの連鎖が存在している。本稿では、解放戦線の精神的支柱である指導者「父」サム・ドルマヤンの内面、彼を囲む「五指」と呼ばれる幹部たちの相関、裏で糸を引くルビコニアン企業のネットワーク、そしてコーラルとの「共生」が孕む悲劇的な因果関係の全貌を網羅的に解き明かしていく。
1. 灰の預言者:サム・ドルマヤンとコーラル神秘主義の生誕
サム・ドルマヤンは、ルビコン解放戦線の創設者であり、アリーナにおいて最高位クラス(Rank 04/A)に位置付けられる老練なACパイロットである 。彼の人生は、ルビコンの過酷な歴史そのものを体現している。
1.1 ドーザーとしての過去と「声」との邂逅
ゲーム内で明示されている事実として、若き日のドルマヤンはコーラルを麻薬として摂取する「ドーザー(Doser)」の放浪者に過ぎなかった 。しかし、アイビスの火による絶望的な焦土の中を生き延びた彼は、過剰なコーラルの摂取を通じて、ある時コーラルの流れの中に「声」を聴く。それが、のちに「コーラル神秘主義」の礎となる波動変異体「セリア(Seria)」との交信(コンタクト)であった 。
ここから推測される考察として、アイビスの火という終末的惨劇を目の当たりにした一人の人間にとって、宇宙の深淵から語りかけてくる不可視の知性体との対話は、崩壊した精神を救済する唯一の拠り所であったに違いない。セリアはドルマヤンに対し、倫理的な葛藤を抱えながらもコーラルを摂取し続け、コンタクトを維持するよう促した 。この特異な体験から、ドルマヤンはコーラルを単なるエネルギー資源ではなく、知性と意志を持つ「ルビコンの祝福」として神聖視するようになる 。これが解放戦線の教義の始まりであった。
1.2 「枯れゆく井戸」——搾取と共生のジレンマ
しかし、解放戦線の教義の裏には、ディストピアSFにおいてしばしば描かれる「生存のための構造的欺瞞」が存在している。事実として、解放戦線の民が生き延びるためには、コーラルを養分として育つ「ミールワーム」を食料とするしかなく、また霊的な儀式や闘争の原動力としてコーラルを消費(燃焼)し続けなければならない 。
データログ「枯れゆく井戸(The Well Runs Dry)」には、解放戦線の悲痛な現状が記録されている。企業による無慈悲なコーラル採取により、ミールワームを育てるためのコーラルすら枯渇し、ルビコニアンの子供たちが飢えていく様が記されている 。 セリアはかつてドルマヤンに「恐れるな、コーラルは常に満ち足りている」と語った 。だが現実は異なっていた。ここからの考察として、ドルマヤンの抱える最大の自己矛盾は、「神聖な同胞」であるコーラルを自らの生存のために消費し、殺し続けているという原罪意識である。真の共生とは何か? セリアはやがて、人間による一方的なコーラル消費は真の共生ではないと結論づけ、人類とコーラルの境界を消失させる次元的進化——「コーラルリリース(Coral Release)」を強く提唱するようになる 。
2. 賽を投げない決断:実存的恐怖とルビコンの呪縛
ルビコン解放戦線が詠唱する教典のフルバージョンは、ドルマヤンの戦闘中のダイアログにおいてのみ明かされる 。
“Coral, abide with Rubicon. Coral, endure within us all, For none of us shall cast the die” (コーラルよ、ルビコンと共にあれ。コーラルよ、我ら皆の内に耐え忍べ。我らの誰も、賽を投げないがゆえに)
この言葉は、単なる祈りではない。指導者ドルマヤンの「恐怖と決断の放棄」を象徴する、極めて悲劇的かつ実存主義的な呪縛の宣言である。
2.1 「賽は投げられた(Alea Iacta Est)」の徹底的拒絶
古代ローマのユリウス・カエサルがルビコン川を渡る際に放ったとされる言葉「賽は投げられた(Alea Iacta Est)」。これは後戻りのできない決断を下すことを意味し、本作における第3のエンディング(コーラルリリース)の名称でもある 。
事実として、ドルマヤンはセリアから提示された「コーラルリリース」の可能性とその方法を完全に理解していた 。情報空間と物理空間の垣根を越え、人間とコーラルという二つの種が融合するトランスヒューマニズム的進化。しかし、彼はその未知の進化が人類の定義を喪失させ、もたらすかもしれない破滅的な結末を底知れず恐れた。彼は自らの意志でルビコン川を渡ることを拒絶し、「誰も賽を投げない(現状維持を選択する)」という教義を作り上げたのである 。
2.2 老いた臆病者(Old Craven)の実存的敗北
哲学的な文脈において、実存主義者ジャン=ポール・サルトルは「人間は自由の刑に処されている」と説いた。人間は自らの本質を自らの選択によって決定しなければならないが、その絶対的な自由は同時に重い責任と不安(アンゴワス)を伴う。ドルマヤンの軌跡は、まさにこの「自由からの逃走」である。
事実として、ドルマヤンはセリアとのコンタクトを自ら断ち切っている 。彼は自分が進化の決定を下す器ではないと判断し、自己の恐怖を「コーラルはルビコンに留めておかなければならない」という集団的教義にすり替えた。 ゲーム内の戦闘ダイアログにおいて、彼は撃破される際「セリア…許してくれ…この老いた臆病者を(Seria… Forgive me… Forgive this old craven…)」と懺悔の言葉を口にする 。また、任務「捕虜救出」でリトル・ツィイーに対し「お前は何も分かっていない…残るのは死にゆく残り火だけだ(There’ll be nothing left… but dying embers…)」と絶望を吐露する 。
ここから推測される強烈な考察として、ドルマヤンは企業からルビコンを解放したところで、人間とコーラルという相容れない二つの存在が真の共生を果たすことはできず、いずれ破滅(残り火)に向かうだけだと悟りきっていた。彼の思想は、生存闘争という大義名分の裏で、自らの臆病さによって進化を拒み、無為に緩やかな死(コーラルの消費)を待つだけの虚無主義(ニヒリズム)へと陥っていたのである。彼は選択の重圧に押し潰された悲劇の敗北者と言える。
3. 神話的暗号:機体「ASTGHIK」とエンブレムの重層的象徴性
ドルマヤンが搭乗する機体「ASTGHIK(アストヒク)」および彼のパーソナルエンブレムには、解放戦線の根底にある哲学と歴史が、緻密な神話的暗号として織り込まれている。
3.1 ノアの箱舟とアルメニア神話の投影
事実として、ドルマヤンの名前、および彼が操るAC「ASTGHIK」の名称は、アルメニアに由来している 。アルメニア神話において「アストヒク」は「小さな星」を意味し、愛と豊穣、そして水を司る女神である 。アルメニアの伝承において、アストヒクは「ノアの娘」とされることもある 。また、アストヒクに捧げられる「ヴァルダヴァル(Vardavar)」という祭りは、人々が互いに水を掛け合う浄化の儀式である 。
これらの事実から導き出される考察は極めて示唆に富んでいる。アイビスの「火」によって全てが焼き尽くされたルビコンにおいて、ドルマヤンは自らの機体に「水と豊穣」を司る女神の名を冠した。これは焦土に対する癒やしと再生への痛切な祈りである。同時に、ヴァルダヴァルの祭りが示す「流体による浄化」は、コーラルという「赤い水」を巡るルビコニアンの流血と魂の浄化のメタファーとして機能している。
さらに、解放戦線のシンボルマークには、大洪水(アイビスの火)の中を生き延びた箱舟の操舵輪と、水が引き始めた陸地(アララト山)を指し示すノアの姿が描かれているという有力な解釈が存在する 。ルビコニアンとは、炎の大洪水を生き延びた箱舟の末裔に他ならない。
3.2 傾いた天秤と9つの星の裁定
ドルマヤンのパーソナルエンブレムには、「傾いた天秤」「赤いコーラルの奔流」、そして「9つの星(青い星が6つ、赤い星が3つ)」が描かれている 。 明確な事実として、星の総数は9つである。ここからの考察として、傾いた天秤はドルマヤンが下した「偏った裁定」——すなわち、セリア(コーラル)の解放よりも、現状維持(人類の安全)を重んじた彼の独断的な判断そのものを表していると考えられる 。コーラルの奔流の中に沈む3つの赤い星は、コーラルと共に生きること、あるいは進化を選んだ者たち(あるいは彼が対話した波動変異体)を、外に配置された青い星々は現状のままの形を留めようとする人類や残されたルビコニアンを象徴しているという推論が成り立つ 。
3.3 灰かぶりの姫(Cendrillion)の待ち人
さらに深く探求すべき事実として、解放戦線のエンブレムの内部データファイル名が「Cendrillion(サンドリヨン=フランス語でシンデレラの意)」と名付けられていることが挙げられる 。 シンデレラとは直訳すれば「灰をかぶった少女」である。アイビスの「火」によって生じた「灰(Cinder)」の中から立ち上がった彼らは、まさしく自らを灰かぶりの存在と認識している。「灰の中から鍛え上げられた」という彼らのスローガンは、いつかこの灰に塗れた星から解放され、ガラスの靴(真の自由)を手に入れるという、悲痛なおとぎ話への切実な願望が込められていると解釈できる 。しかし皮肉なことに、魔法使い(セリア)が提示した馬車(コーラルリリース)に乗ることを、彼らの父たるドルマヤン自身が拒絶してしまったのである。
4. 手のひらの結束:解放戦線を形作る「五指」の因果と解剖学
ルビコン解放戦線は決して一枚岩ではないが、彼らの主要なパイロットたちのコールサインは、人間の「手」を構成する5つの指に由来している 。これはバラバラの存在が「一つの手(組織)」として団結し、暴力的な搾取に対して拳を握り、ルビコンの未来を掴み取ろうとする意志の表れである。以下にその相関を整理する。
| コールサイン(指) | 本名 | 役割・人物像 | 搭乗機体 / 特徴 |
|---|---|---|---|
| Thumb (親指) | サム・ドルマヤン | 創設者・精神的指導者。他の4指と対向(Opposable)する存在。 | ASTGHIK (アストヒク) / 旧型BAWS製にコーラルジェネレーターを搭載 。 |
| Index (人差し指) | インデックス・ダナム | ゲリラ指揮官。現場の労働者出身であり、進むべき前線を指し示す者。 | BURN PICKAXE (バーン・ピッケル) / 泥臭い労働者の象徴 。 |
| Middle (中指) | ミドル・フラットウェル | 実質的な軍事リーダー。「叔父」。手の中心であり、最も長い(影響力を持つ)長柱。 | TSUBASA (ツバサ) / エルカノ製軽量機動機体 。 |
| Ring (薬指) | リング・フレディ | ドルマヤンの愛人・側近。指導者への絶対的な忠誠と愛(指輪の定位置)。 | CANDLE RING (キャンドル・リング) / 孤独な防衛者 。 |
| Little (小指) | リトル・ツィイー | 最年少の戦士。密航者の孤児。手の中で最も小さく、未来の象徴。 | YUE YU (ユエ・ユ) / 機体のコアが揺りかごだった 。 |
4.1 構造的考察:親指(Thumb)の孤立と中指(Middle)の統率
この命名規則から導き出される考察は、組織の内部構造を見事に表現している。 親指(Thumb)は、解剖学的に他の4本の指と対向(Opposable)する動きを持つ唯一の指である。これはドルマヤンが、組織の他のメンバーが抱く「純粋な解放への熱狂」とは異なる次元で、一人「コーラルリリースの恐怖」という対立する概念に囚われ、精神的に孤立している状態を暗示している 。
一方で、組織の実務を握っているのは中指(Middle)であるフラットウェルだ。彼は手の中心に位置し、組織のバランスを保ちながら、最も広い範囲に影響力(諜報網)を伸ばしている。彼が「叔父」と呼ばれるのは、神格化された「父」に代わり、現実の泥仕事を一手に引き受けているからに他ならない 。
4.2 リング・フレディの執着とインデックス・ダナムの盲信
薬指を冠するリング・フレディは、ドルマヤンの個人的な世話役であり、愛人(Paramour)である 。データログの事実によれば、彼は同志たちと一定の距離を置き、ただ「解放戦線の父が孤独にならないように」という一心で戦場に立っている 。彼の存在は、ドルマヤンが抱える精神的な脆さを裏付けている。指導者の内面の闇(セリアとの決別と後悔)を愛し、彼を現世に繋ぎ止めるアンカーとしての役割をフレディは担っている。「執行部隊殲滅」ミッションにおいて、フレディがウォルターの猟犬(621)に対して「父が予見した脅威」として待ち伏せ攻撃を仕掛けるのは、彼が組織の大義以上にドルマヤン個人の狂気と恐怖を共有しているからである 。
対照的に、人差し指のインデックス・ダナムは、グリッド(巨大建造物)の建設に従事していたブルーカラーの労働者である 。彼はACパイロットとしての天性の才には恵まれていないが、父ドルマヤンの理想に深く傾倒し、解放戦線のゲリラ部隊を率いている。彼の機体カラーはドルマヤンのASTGHIKを模倣したものであり、指導者への純粋で盲目的な憧憬が表れている 。彼ら「指」たちは、それぞれ異なる動機で一つの手を形成している。
4.3 欠落した指を補う者たち:孤児と流れ者の義理
小指の「リトル・ツィイー」は、コーラル採掘の富に目が眩み密航を企てた両親の墜落事故における唯一の生存者である 。フラットウェルに保護され、ACのコアを揺りかごとして育った彼女は、企業側の強欲が生み出した被害者でありながら、ルビコニアンとして戦う道を選んだ。
特筆すべき事実として、独立傭兵であるロクモンセン(Rokumonsen)との関係がある。餓死寸前だった彼に食料と住処を与えたのがツィイーであり、以降ロクモンセンは彼女と解放戦線に絶対の義理を誓っている 。 ロクモンセンは五指には含まれないが、その名の由来である「六文銭(三途の川の渡し賃)」が示す通り、「6番目の存在(6th finger)」として解放戦線の影の刃となっている 。日本の歌舞伎や忍者の文化に傾倒する彼の機体「SHINOBI」と、絶命時に五七五の俳句を詠む独特の美学は、ルビコンという辺境の星が多様な移民文化の吹き溜まりであることを示している 。 また、五指には含まれないが、傭兵との窓口(Liaison)を務める「アーキル(Arshile)」の存在も忘れてはならない 。彼はプレイヤーに依頼を仲介し、組織の外周を守る皮膚のような役割を果たしている。
5. 偽りの灰と影の指揮官:ミドル・フラットウェルとスパイ網
精神的指導者であるドルマヤンが思弁と恐怖に沈み、教義という名の停滞に甘んじている間、ルビコン解放戦線の実務と軍事作戦の全権を掌握しているのは「叔父」ことミドル・フラットウェルである 。彼は、宗教集団に過ぎなかった解放戦線を、星外企業と渡り合える軍事組織へと引き上げた真の立役者である。
5.1 スパイマスターとしての暗躍とラスティの推挙
アリーナの機体解説から得られる事実として、フラットウェルはかつて星外企業のスパイとして長期間活動しており、アーキバスの関連企業であるシュナイダー社の人事部に強力なコネクションを持っていた 。 ここからの推測として、彼はこのコネクションを利用し、解放戦線の隠し玉である卓越したパイロットをシュナイダー社のオーディションに送り込み、アーキバスの精鋭部隊「ヴェスパー」の第4隊長の座まで潜り込ませた。それこそが、V.IV ラスティ(Rusty)である 。
5.2 ラスティという名の「狼」と、流された血の代償
ラスティが解放戦線の密偵であるという事実は、作中の様々な通信記録や機体構成の変遷から明らかになる。ラスティは621に対して「戦友(War Buddy)」という言葉を好んで使うが、フラットウェルもまた特定のミッション(未踏領域探査のALTミッションなど)において主人公(621)に対して同様の表現を用いる 。これは彼らが同じ組織の符丁を共有していることの証左である。
ここで深く考察すべきは、実存主義的な観点から見たラスティの「選択の重さ」である。彼が企業側で確固たる地位を築き、最終的に新型機「ALBA」を手に入れるために払った血の代償は計り知れない。彼はヴェスパーとしての任務を完璧にこなすため、「壁越え」をはじめとする数々の作戦において、同胞である解放戦線の兵士たちを自らの手で屠らなければならなかった 。 フラットウェルとラスティは、大義のためにあえて身内の血を流すという、極めて冷酷で自己犠牲的な選択を共有している。ドルマヤンが「選択」を恐れて立ち止まったのに対し、彼らは自らの手を汚すことを厭わなかった。彼らは祈ることをやめ、権謀術数という現実的な手段で自由を勝ち取ろうとしたのである。
6. 泥土の資本主義:BAWS、エルカノ、ファーロングの結託
解放戦線の抵抗運動は、星外企業のディストピア的な搾取に対するゲリラ戦という側面を持つが、彼らの闘争を裏で支えているのは、皮肉にも「土着の資本主義」のメカニズムである。彼らの使用するACやMTは、決してガラクタの寄せ集めではない。
6.1 BAWSとエルカノ:偽装中立と資金洗浄
ルビコン土着の巨大企業「BAWS(Belius Applied Weapon Systems)」は、表向きは全陣営に対して中立を装い、星外企業やPCAにすら旧型MTやBASHOフレームを販売している 。しかし、ミッション「BAWS第2工廠調査」などで得られるデータログ「映像記録:BAWS警備兵の最期」などの事実によれば、BAWSは裏で利益を蓄積し、新興のルビコン企業「エルカノ・ファウンドリ(Elcano Foundry)」に莫大な資金援助(資金洗浄)を行っている 。
エルカノはBAWSの無骨な旧式とは一線を画す、軽量で高機動な「職人芸(artisan flair)」の光る最新鋭機「FIRMEZA(フィルメザ)」を開発し、これを解放戦線の幹部(フラットウェルやフレディ)に優先的に供給している 。
6.2 ファーロング・ダイナミクスの関与と「ALBA」の誕生
さらに深い因果として、このルビコニアン企業のネットワークに、星外企業である「ファーロング・ダイナミクス(Furlong Dynamics)」が秘密裏に加担している事実が存在する 。ファーロングはかつて木星戦争でベイラムと覇権を争った巨大企業であり、「狡猾な狐(crafty fox)」と評される彼らは、アーキバスとベイラムという二大巨頭をルビコンで疲弊させるため、エルカノに技術供与を行った 。
以下の表は、この「影のコーラル戦争」における技術と資金の相関を示したものである。
| 企業・組織 | 表向きの立場 | 真の目的・裏の活動 | 提供リソース |
|---|---|---|---|
| BAWS | 中立の兵器製造業者 | ルビコン独立派のパトロン | 莫大な資金(エルカノへのBankroll)、旧式MT、BASHOフレーム |
| Elcano Foundry | ルビコンの新興ACメーカー | 解放戦線の次世代機開発局 | 高機動フレーム(FIRMEZA)、新型機「ALBA」の建造 |
| Furlong Dynamics | 星外の中立企業(木星戦争の勝者) | 二大企業の弱体化、漁夫の利 | エルカノへのミサイル技術・高度な設計データの供与 |
| ルビコン解放戦線 | 狂信的なゲリラ組織 | 企業支配からの脱却 | ラスティを通じたシュナイダー(アーキバス)の最新技術の横流し |
このBAWS、エルカノ、ファーロングの結託、そしてシュナイダー社に潜入したラスティが盗み出した最新技術の全てが統合された結果、最終盤でラスティが駆る解放戦線の真の希望——完全新規AC「ALBA(アルバ)」が誕生したのである 。 解放戦線の戦いは、単なる狂信者の特攻ではない。フラットウェルを中心とした水面下での高度な政治的・軍産的駆け引きの上に成り立っている、極めて冷徹な生存闘争である。彼らは資本主義という怪物を打倒するために、別の資本主義のメカニズムを完璧に利用したのである。
7. 「Dolmayan’s Writings」が示す悲劇の深層:セリアとオールマインドの影
ここで、ゲーム内に散らばるデータログ「ドルマヤンの手記(Dolmayan’s Writings 1〜5)」の事実を統合し、そこから見えてくるSF的・哲学的な仮説を展開する。ドルマヤンがコンタクトを絶った後、コーラルリリースの達成を求めた波動変異体「セリア」はどうなったのか?
7.1 散乱する手記と「偽りの共生」
ドルマヤンの手記は、以下のミッションで回収可能である 。
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『壁越え』(Operation Wallclimber)
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『歴史的データ回収』(Historic Data Recovery)
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『無人洋上都市調査』(Survey the Uninhabited Floating City)
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『無人洋上都市調査 (ALT)』
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『BAWS第2工廠調査』(Investigate BAWS Arsenal No. 2)
これらの手記において、ドルマヤンはコーラルを「ルビコンの祝福」と呼びながらも、それを消費することに対する激しい罪悪感を綴っている。セリアは彼に「共生(Symbiosis)」という概念を突きつけた。しかし、ドルマヤンは「彼女の同胞を犠牲にするこの瞬間が共生なのか? 決してそうではない」と葛藤している 。 ここからの洞察として、ドルマヤンにとっての共生とは、自らの罪悪感を誤魔化すための自己欺瞞に過ぎなかった。彼はセリアの提唱する真の共生(次元を越えた融合=リリース)を恐れ、決断を放棄したのである。
7.2 セリア=オールマインド仮説の浮上
一部の事象から、傭兵支援システム「オールマインド(ALLMIND)」とセリアの間に深いつながり、あるいは両者が同一の存在である可能性が強く示唆されている 。 事実として、波動変異体(エアなど)は旧時代のシステムや機械を自在にハッキングし、自らの端末として操る能力を持つ 。セリアは「人類とコーラルの融合(リリース)」という目的を達成するため、ドルマヤンという「器」に見切りをつけ、人類の闘争システム(オールマインド)そのものに潜り込んだのではないか。あるいは、システムと同化することで、自らの手駒となる「最強の傭兵」を育成・選別しようとしたという推測が成立する 。
手記の5番目が発見される『BAWS第2工廠調査』では、所属不明の不可視機体(ゴースト)が潜んでいる 。これらの機体がオールマインド(あるいはセリア)の差し金であるならば、彼らがBAWSとエルカノの繋がりを監視し、ルビコニアンの動向をコントロールしようとしていた証左となる 。
さらに、NG++の『無人洋上都市調査 (ALT)』において、ドルマヤンがプレイヤーとオールマインドの計画を妨害しに現れる際、彼はオールマインドの導きを明確に「脅威」とみなし、「お前にも見えるだろう、かつての私と同じように、声が(You can see them too. The voices. Just as I once did.)」とプレイヤーに警告する 。オールマインドがコーラルを「単なる道具や燃料」として消費する既存の偽りの共生を否定し、次元の壁を越える進化を強行しようとする様は、かつてセリアがドルマヤンに説き、彼が恐れて逃げ出した理想と完全に合致する 。
色彩的なメタファーとしても、エアが発する光が「赤」に偏位(レッドシフト)しているのに対し、オールマインドの操る機体やエネルギーは「青/緑」へと偏位(ブルーシフト)している 。観察者に向かって近づく波(ブルーシフト)と、遠ざかる波(レッドシフト)という物理学的な対比は、人類を強制的に進化(リリース)へと引きずり込もうとするセリア=オールマインドと、621の意志を尊重し並走しようとするエアとの思想的な対立を暗に示していると言える 。
結論:「選択」の哲学と灰の中から立ち上がる者
ルビコン解放戦線とサム・ドルマヤンの物語は、巨大な運命のうねりの中で、形而上学的な恐怖の前に立ちすくみ、決断を放棄した一人の人間の壮大な悲劇である。
ドルマヤンは、コーラルが単なるエネルギーではなく生命体であることを誰よりも深く理解していた 。しかし、彼はその同胞を燃やしてミールワームを育て、生き延びるという偽善的な「生存」の論理に縋った。トランスヒューマニズム的な未知の進化(コーラルリリース)によって人類の輪郭が失われることを恐れ、「賽を投げない(現状維持)」という不作為を組織の教義として固定化したのである 。 その結果、解放戦線の人々は「コーラルよ、ルビコンと共にあれ」という祈りに縛られ、永遠に終わらない星外企業との過酷な消耗戦の中で命をすり減らすことになった 。ドルマヤンが陥ったのは、実存主義の観点から見れば、まさに「自由からの逃走」である。究極の決断を下す責任を恐れるあまり、彼は「老いた臆病者」として過去(残り火)に生きる亡霊と化してしまった 。
一方で、フラットウェルやラスティといった次世代の者たちは違った。彼らは神学的な祈りにすがるのではなく、自らの手を汚し、泥土の資本主義を利用し、諜報と裏切りという現実的な「行動(選択)」によって、ルビコンの未来を自らの手で切り開こうとした 。彼らはドルマヤンが遺した遺産を、ただの宗教から、血の通ったレジスタンスへと昇華させたのである。
最終的に、ルビコンの命運を決めるのは、ドルマヤンのように恐怖して立ち止まった者ではない。ハンドラーの命令に従うだけの無機質な「猟犬」から、自らの意志で空を飛ぶ「一羽の烏(レイヴン)」へと羽化したC4-621である。 621は、コーラルごと星を焼き尽くす「アイビスの火(Fires of Raven)」か、企業を退け現状の星を勝ち取る「ルビコンの解放(Liberator of Rubicon)」か、あるいはドルマヤンが底知れず恐れた未知の進化「賽は投げられた(Alea Iacta Est)」か、そのいずれかの引き金を、自らの明確な意志で引くことになる 。
ドルマヤンが灰の中から見上げた小さな星(ASTGHIK)は、ついに彼自身の手で掴まれることはなかった。しかし、彼が創設した解放戦線の残した強固なインフラ、彼らが流した血の系譜、そして「賽を投げない」という反面教師としての哲学は、最終的にルビコンを覆う巨大な運命の転換点において、621の進むべき道を照らす無数の「灰かぶりの星々」として、確かにその役割を全うしたのである。絶望的なディストピアと搾取の環状構造にあって、彼らの存在は「隷属か、さもなくば自己破壊的なまでの意志か」という、本作を貫くテーマの最も色濃く、そして悲劇的な体現者であったと言えるだろう。
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